女王の矢―新訳 (1-1 ヴァルデマールの使者)

新訳 女王の矢―ヴァルデマールの使者 (C・NOVELSファンタジア)

新訳 女王の矢―ヴァルデマールの使者 (C・NOVELSファンタジア)

 祝、再販(?)というわけで購入。最初、いつもの創元だと思ってて本屋で見つけれずにすごすご手ぶらで帰ったのは秘密です。よりによってC Novelかい。皇国とか茅たんのとこというのは全く想定外でした。版権だけ押さえて放置という生殺しになりさえされなければ別にどこから出ても構わないですけどね。社会思想社版買い逃した上に投げっぱなしだっただけに訳書は絶望的で今回の新訳版の発行はほんとに嬉しいです。まさに拾う神。


 しかし今回読んで思ったのはヴァルデマール年代記のシリーズってのは基本的に各章(?)の主人公が灰かぶりというか醜いアヒルというか幼少時に恵まれない環境からのシンデレラストーリーですね。例外はタルマくらいですか。そのタルマにしても逆境から立ち直るのは似たようなもんですが、社会性だとか思想だとか基本的にあの一族はこの世界では色々と型破りで例外だと思いますし。そもそも目的が一族再興と他の主人公達と目標が全然違う。
 ケスリーと猫娘の境遇は元があんまりなのでともかくとして他の主役達に関しては主人公効果無かったら一歩間違うとただのわがまま妄想娘、或は電波娘になりかねない微妙な立ち位置で主人公に感情移入しずらい。女王の矢に関してはあんまり適切な表現とは言えないけど中二病的な雰囲気があるのであんまり好きじゃないです。ケロウィンは劣化タルマとか言ったらファンの人に怒られるかなぁ・・・。


 なんでだろうと思って色々考察してみるとエルスペスとタリアの場合は特に共に歩むものが絶対的な善良さの証明、選ばれた時点で無条件に道を間違えることがありえない暗黒面には絶対に落ちないという設定上便利すぎる相棒がいるせいですね。タルマでいうところの女神様やもとめ同じようなもんですが女神様は信者にべた甘な癖に呼ばれない限り出てこない放置主義だし、もとめに至っては休眠状態だと善悪の区別なく制約が発動する代物と免罪符にはならない位置ですし。


 ヴァルデマールという国の成り立ち、組織の視点だと共に歩むものはアリだと思うけど個々人の視点だと邪魔。独善というか胡散くささが先にたって個人的に嫌い。ヴァルデマールや使者に敵対する者は邪悪という勧善懲悪になってしまうのがどうにもこうにも面白みに欠けるわけですよ。ま、なんだかんだ言いつつ年代記通して悪役は野心的でわかりやすいのばっかりだから大差無いといえばそれまでなんですがね。


 ヴァルデマール年代記は各章の主役の交代はあるもののそれぞれの話が繋がってるおかげで登場人物がキャラによって名前だけだったり若かりし頃だったり成長してたりで、それにしてもタリアがこんな若かったとは…既刊の印象で女王と同年代、少なくとも10歳くらい上に見積もってましたよ。100歳過ぎてもピンピンしてる中世世界の平均寿命をあざ笑うかのような例外もいるからこの世界で年齢が全然あてにならないのはわかっちゃいるんですけどね。魔法万歳。


 ぶっちゃけた話、外伝的位置付けのタルマ&ケスリーのシリーズ以外はあんまり好みじゃなかったりするんですが続きは関連作品やその続きは読みたいと思ってしまうのはシリーズ物にありがちな罠ですね。この年代記の魅力は世界観と登場人物の日常の描写だと思うのでそのへんが出てればメインのストーリーはあんまり気にしない。戦争(戦略要素)とか剣あるいは魔法による戦闘シーンなどがいまいちだという認識なのでそのあたりがメインにきてるとちょっと辛いんですよね。色恋関係も同様ですが。そんな感じで一番好きなのは外伝的位置の更に外伝短編集『誓いのとき』。以下『裁きの門』>『女神の誓い』>『宿命の囁き』>『運命の剣』>『失われし一族』>『女王の矢』という順にお勧めとなります。時系列ばらばらやけどw


 そういや年代が進んで主人公がどんどん交代していくシリーズっての国産ではあんまり見かけないですね。ぱっと思いつくのは小説では無いけれどジョジョくらいか。
 表紙絵とか変に新規の取り込み意識してそうで逆に奨めづらいなぁ…。創元の方が硬派なだけに。いやま猫娘の絵面とか意識しまくりやんってのはさておくとして。脳内では創元仕様のイメージで統一されてるので既刊読んでればそんなに問題ないとは思うんですが。*1


 購入、読了も発売直後とわりと早めでこの文もほとんど書き終えてたのにめんどくさくて放置というよりほとんど本もこのテキストも存在そのものを忘れてたわけですが創元の方で新刊が出たので思い出しもったいないのと順番前後しないようにUP。


中央公論新社(女王の矢-ヴァルデマールの使者の紹介ページ)
http://www.chuko.co.jp/new/2007/09/500999.html
[rakuten:book:12178742:detail]

*1:というか下のリンクの中央公論新社のページから立ち読みで見れるんですが登場人物紹介がどうやっても絵とキャラが結びつかないw